現在、全国に約654万戸のマンションがあり、大規模修繕工事に要する修繕積立金の不足に悩むマンション管理組合が増えています。国土交通省が実施した「マンション総合調査」では、34.8%が修繕積立金の不足と回答しました。以下に、マンション購入前にチェックしたい修繕積立金の不足について説明します。
1.修繕積立金とは、管理費との違い
マンション購入を検討していますが、管理費と修繕積立金の違いがよくわかりません。
管理費は、日常のマンション共用部分の管理・メンテナンスに要する費用で、修繕積立金は、定期的な大規模修繕工事に備える費用となります。
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1-1.管理費
管理費は、日常のマンション共用部分の管理・メンテナンスに要する費用です。通常は、管理組合が管理会社にマンション管理を業務委託し、その費用を入居者が管理組合を通して毎月支払います。管理費の主な内訳は下記です。
- 共用部分の清掃、ゴミ処理
- 共用部分の水道光熱費
- 共用部分の火災保険料・損害保険料
- 共用設備の保守点検・維持管理(エレベーター・受水槽の点検、照明電球交換、等)
- エントランス、外構部分(通路・駐車場・駐輪場)の植栽の維持管理(水やり、剪定)
- 管理業務費(総会案内、議事録作成、エントランス窓口業務、等)
1-2.修繕積立金
修繕積立金は、定期的(10年、20年ごと)な大規模修繕(マンション建物の修繕・メンテナンス)に備える費用です。通常は、管理組合が管理会社を通して修繕工事会社に業務委託し、その費用を入居者が管理組合に対して毎月積立てします。
修繕積立金は、マンション分譲会社が分譲前に作成した「長期修繕計画」に基づき計算された金額です。修繕積立金の主な内訳は下記です。
- 外壁の修繕工事(タイル張替、吹付塗装、等)
- 屋根・屋上の修繕工事・防水工事
- 共用部分の廊下・階段の修繕工事・防水工事
- 給排水管の修繕工事(受水槽、浄化槽、等)
- エレベーターの修復・取替工事
2.工事項目ごとの修繕周期
修繕積立金が大規模修繕工事に備える費用とのことですが、その工事はいつ頃行われるのですか?
大規模修繕工事といっても、様々な工事項目に分かれます。その工事項目ごとに、工事を行う時期の目安があります。以下で説明します。
修繕周期は、建物の損傷部位、設備性能・機能を実用上問題がないレベルまで、修復出来なくなるまでの期間です。修繕周期において新築マンションでは、修繕工事項目ごとにマンション仕様、立地条件等を配慮し設定します。既存マンションでは、建物・設備の損傷状況調査、診断結果に基づき設定します。
2-1.建物の修繕周期 ※1
以下に、国土交通省が定める建物の修繕工事項目(屋根防水、床防水、外壁塗装・タイル張、鉄部塗装)ごとの修繕周期を下表に記します。「第3編 長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」出典:国土交通省
2-1-1.屋根防水の修繕周期
2-1-2.床防水の修繕周期
2-1-3.外壁塗装・タイル張の修繕周期
2-1-4.鉄部塗装等の修繕周期
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2-2.設備の修繕周期 ※1
以下に、国土交通省が定める設備の修繕工事項目(給水設備、排水設備、ガス・空調・換気設備、消防用設備、昇降機設備、立体駐車場設備)ごとの修繕周期を下表に記します。
2-2-1.給水設備の修繕周期
2-2-2.排水設備の修繕周期
2-2-3.ガス・空調・換気設備の修繕周期
2-2-4.消防用設備の修繕周期
2-2-5.昇降機設備の修繕周期
2-2-6.立体駐車場設備の修繕周期
修繕工事は、時期が早すぎると過剰な修繕となり、遅すぎると損傷が進行し修繕工事費を増加させます。
修繕工事項目を集約して同時期に修繕工事を行うと、共通仮設費用の軽減になり経済的です。逆に修繕工事項目を集約し過ぎると、修繕積立金の不足に繋がります。
3.修繕積立金が足りない場合はどうなるか?
修繕積立金が足りないってことがあるのですか?その時はどうするのですか?
全国的に修繕積立金が不足しているマンションの割合が増加しています。その対策を説明します。
現在の修繕積立金の積立額が、長期修繕計画に基づく修繕積立金の積立額と比較して、不足しているマンションは全体の34.8%になっています。不明の割合が31.4%あるため、不足している割合は実質的にはもっと増えます。 「平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状」出典:国土交通省
3-1.一時金
修繕工事は不確定要素が多いため、予想外の工事の発生や資材数量の増加、物価上昇による資材費用の増加、災害・事故による緊急の工事費用捻出のために、一時金を集金することがあります。
ただし、区分所有者の同意を得られない可能性もあります。想定できる範囲内で、事前に修繕工事内容・時期・費用などの説明資料を作成・提示し、区分所有者の了解を得られる配慮が必要です。
3-2.共用部分のメンテナンスがされない
上記修繕周期を見ると、分譲後12年経過した時点で修繕の大きな節目を迎えます。共用部分は、エントランス、昇降機、共用廊下、バルコニー、階段、屋根、外壁、等多岐に亘るため、多額の工事費用を要します。後述するように、積立方法として「均等積立方式」と「段階増額積立方式」等ありますが、2010年以降に竣工したマンションの68%は「段階増額積立方式」です。
その要因は、分譲会社がマンション価格の高騰を受けて、購入者の負担緩和をするためです。しかし修繕積立金を増額するには、事前にわかっていることとはいえ、管理組合総会での区分所有者による決議が必要となります。
その際増額に反対し、決議が難航する場合も少なからずあります。合意形成出来ないまま時間が経過し、修繕積立金の不足状態に陥り、共用部分の一部しか補修できず、残部は放置状態となります。
【参考】「マンション修繕積立金、家計に暗雲 3割が「不足」(2019年7月30日、日本経済新聞)
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3-3.管理組合が借入
共用部分の修繕工事に必要な修繕積立金が不足している場合、管理組合が金融機関からローンを組んで大規模修繕工事を行う場合もあります。多額の一時金よりは検討しやすくなりますが、今までの修繕積立金にローン返済額が加算されるため、合意形成が難航する可能性があります。
また、加算されるローン返済額の不払いという事態になる可能性もあります。区分所有者の家計によっては、払えない場合も出てきます。
仮に管理組合がローンを組むことの合意形成ができた場合、ローンの一つの具体例として、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」があります。管理組合が条件を満たしていると、150万円×戸数を限度とし、総修繕工事費用の80%まで無担保で融資が受けられます。
4.修繕積立金の㎡単価の相場
修繕積立金が概ね、いくらかかるのかわかりませんか?
マンションの立地条件・建物形状・階数等により違ってきます。国土交通省が修繕積立金の概算を計算するガイドラインを出しましたので、それを説明します
国土交通省は、新築マンション購入予定者向けに、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を発行しました。これは修繕積立金についての基本的な知識や、修繕積立金の工事金額の目安を示したものです。
4-1.専有床面積当たりの修繕積立金単価
修繕積立金は、以下の計算式で出ます。「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月) 出典: 国土交通省
- P = A × M (+Q)
ここで、
- P : マンションの修繕積立金の目安額(円)
- A : 専有床面積当たりの修繕積立金単価(円/㎡)(下表)
- M : マンションの専有床面積(㎡)
- Q : 機械式駐車場がある場合の加算額(円)
※15階~19階のマンションの目安は、【15階未満】の目安と【20階以上】の目安との間に収まるものと考える。
【事例1】
10階建て、建築床面積:8,000㎡のマンションにおいて、専有床面積80㎡の住戸の修繕積立金の目安は、
- 修繕積立金 = 202円/㎡ × 80㎡ = 16,160円/月
となります。
4-2.機械式駐車場がある場合の加算額
機械式駐車場がある場合の加算額は、以下の計算式で出ます。
- Q = B × N × G
ここで、
- Q : 機械式駐車がある場合の加算額(円)
- B : 機械式駐車場の1台当たりの修繕工事費(円/台)(下表)
- N : 台数(台)
- G : 購入を予定する住戸の負担割合(専有床面積の割合)
【事例2】
【事例1】と同じマンションで、2段(ピット1段)昇降式の機械式駐車場が70台分あります。購入する住戸の専有床面積は80㎡です。機械式駐車場の加算額は、
- 機械式駐車場の加算額 = 7,085円 × 70台 × 80㎡/8,000㎡ = 4,960円/月
【事例1】と【事例2】を合わせて、駐車場を加味した修繕積立金は、
- 16,160円/月 + 4,960円/月 = 21,120円/月
となります。
中古マンション選びの7つのポイント
5.購入前の調べ方
修繕積立金について購入前に知りたのですが、どうすればいいのですか?
マンション分譲会社もしくは販売会社に尋ねてみると、修繕積立金の金額、金額の根拠、積立方法などを教えてくれます。
修繕積立金は、将来想定される修繕工事や取替工事の内容、その時期、概算費用を記した「長期修繕計画」に基づき計算されます。
5-1.重要事項に係る調査報告書をチェックする
分譲会社もしくは販売会社から重要事項説明を受ける際、調査報告書を提示され、マンションの関連事項の説明がなされます。
その際、通常は長期修繕計画の説明もなされますので、修繕工事の内容・時期・概算費用の確認と同時に、毎月の支払いを要する修繕積立金の内容(金額、積立方法)を確認します。
5-2.修繕積立金の積立方法の確認
修繕積立金の積立方法を確認しておくことは、後々の資金計画(住宅ローン返済等)にも影響を与えるため大切なことです。以下に積立方式の違いを説明をします。
5-2-1.均等積立方式
均等積立方式は、長期修繕計画による修繕工事費の累計額を長期修繕計画期間中(通常30年)に均等に積立てる方式です。安定して修繕積立金を確保する点では、望ましい方式です。
5-2-2.段階増額積立方式
段階増額積立方式は、マンション購入当初の修繕積立金を低めに抑え、段階的に修繕積立金を増額する方式です。この方式を採用する分譲会社が多いです。
5-2-3.修繕積立基金方式
修繕積立基金方式は、マンション購入時にまとまった金額を預ける方式です。最近の傾向として、この方式を採用する分譲会社が増えています。
5-2-4.一時金方式
大規模修繕時に一時金の支払や、管理組合が金融機関からの借り入れを行い返済する方式です。
修繕積立金の積立額が、当初の長期修繕計画に見合った積立額になっているか否かは、その後のマンションライフに大きな影響を及ぼします。積立額が不足すると、途中で多額の一時金が必要になったり、合意できなければ大規模修繕工事の延期になり、最悪の場合は放置状態となります。
そうならないためにも、日頃から区分所有者間での情報交換・啓蒙が必要となります。管理組合・管理会社任せにせず、自分事として取組む姿勢が、マンションの資産価値の維持・向上に繋がります。