昨今、旧耐震マンションが見直されています。旧耐震物件と新築物件の建物の違いとしてよく上げられるのが、地震に対する強さですが、それ以外にも異なる点は多いので、解説をしていきます。
なお、私は普段分譲マンションを供給するデベロッパーの建築担当者として、マンションの建物のデザインや仕様、間取りの企画や、工事現場の監理についても携わっている、いわばマンションのプロフェッショナルです。
仕事で扱っているのは主に新築物件ですが、プライベートでは旧耐震マンションを選択し住んでいるので、検討に役立つそれぞれの魅力や注意点を含め、お伝えしていきます。
今回は専門家目線でお伝えする、新築マンション、旧耐震マンションの建物について特化した比較です。
サイトには、建物以外の観点から解説したページもあるので、興味のある方は併せてご参照の上、自身にあったお住まい選びに役立ててくださいね。
共用部分で選ぶ新築・旧耐震
共用部分とは、専有部分以外の部分となります。
共用廊下、メールコーナーといったものがイメージしやすいですが、そのほかにも外壁、共用の給排水竪管、柱梁といった構造躯体なども含みます。
共用部分ですがお金を出し合ってみんなで使っているというイメージですね。
外観
物件の第一印象を決めるのはその外観です。
新築物件の大きな魅力の一つが、最先端の近代的なデザインです。近年では一級建築士の資格を持ったデザイナーが起用されることも多く、土地に合わせた様々なデザインのマンションが売り出されています。
また新築マンションは当然、竣工から時間が経っていないのでピカピカです。ただし、外壁の汚れが目立ちやすい、夏の暑さでタイルがはがれる等、美観維持に関するトラブルが後から発覚することもあります。
旧耐震の場合はどうでしょうか。もしかすると「ボロボロでみすぼらしい」「デザインが古臭い」とマイナスのイメージがあるかもしれません。
しかし中には、きれいに維持されていて「レトロでかわいい」「風格のある外観」と、かえって今のマンションにない魅力を放つ物件も少なくありません。
最近の建設業界では工業化が進んでおり、技術がなくても施工ができるように部品の共通化、ユニット化や工場生産がすすめられています。手仕事という観点からいえば、古い時代のマンションの方が、職人技が光る技巧が見られる場合もあります。
竣工直後は当然ピカピカですが、新築なのは最初だけ。時間がたった後でもきれいに見えるデザインと管理が大切です。そういった意味で、あえて「綺麗に見える旧耐震マンション」を選ぶという考え方もあります。
なるほど。旧耐震なのに綺麗に見える建物なら、この先も綺麗なまま維持できる可能性が高いっていうことですね!
共用施設
入居者みんなが使える共用施設の充実度に関してはどうでしょうか。
新築マンションでは最新のトレンドを抑えた共用施設が用意されています。種類も豊富な傾向にあり、例えばカフェ風のラウンジ、来客の宿泊も可能なゲストルームや、冷凍食品も預けられる宅配ボックス等が挙げられます。
一方旧耐震マンションは、通路とメールコーナー、駐輪場にゴミ捨て場といった、最低限の共用施設のみという物件も珍しくありません。
お洒落で今風なラウンジを使うことが出来ないのは残念ですが、ラウンジやパーティルームを使う予定の無い方からすれば、維持費が無駄にかからないというメリットととらえることも出来ます。
因みに、近年のマンションが共用部の充実を図る裏には、広告に書ける項目が多いほど顧客にアピールしやすいという理由があります。
施設のある/なしという差異は単純明快で分かりやすいため、他社物件と比較検討している顧客にアピールポイントとして伝わりやすいのです。また一か所への投資で済むため、各住戸に設備をつけるよりもコストが安く済むという事情もあります。
建築費が上がると結局売値も上がってしまうので、限られた購入資金の中で最大限購入者に喜んでもらうためにこの方法は決して悪いわけではありません。しかし、その施設が不要な人にとっては、ただ組合費に維持費が乗っかるだけという見方もできます。
なんでもついてたら良いというのではなくて、自分にとって何が本当に必要か、よく考えなきゃいけないんですね。
その通りです。自分が全く使わない施設でも、設備の維持にお金はかかるからね。
構造
旧耐震と聞くと気になるのが建物の強さを決める「構造」の部分です。
新築マンションの場合は「新耐震基準」に適合しています。現行の法律では、この基準に達していない建物を建てることは禁じられているため、必ず「新耐震」物件となります。
一方旧耐震物件はその名の通り、現行の基準よりも一つ古い基準で作られています。これが「旧耐震基準」です。
なお、現行の建築基準法で示している内容は、震度5程度の地震に対して「損傷が出ないこと」。震度6強~7程度に対しては「致命的な損害を回避して人命を守ること」です。新耐震だからと言って「絶対に壊れない」という内容ではないことに注意が必要です。
さて、ここからは過去の大地震での被害の状況を比べてみましょう。
グラフをご覧ください。「新耐震」「移行期」「旧耐震」について、阪神淡路大震災の時の被災度をまとめたものです。
この中で、「移行期」というのはあまり聞きなれない言葉だと思います。1980年以前は「旧耐震」の時代ですが、その中でも1971年~1980年を「移行期 」と呼ぶことがあります。
大破 | 中破 | 小破 | 軽微 | 損傷無し | 総計 | |
旧耐震期 (~1970) |
31棟 | 18棟 | 22棟 | 117棟 | 178棟 | 366棟 |
移行期 (1971~1980) |
42棟 | 49棟 | 158棟 | 647棟 | 915棟 | 1811棟 |
新耐震期 (1981~) |
10棟 | 41棟 | 173棟 | 1224棟 | 1636棟 | 3084棟 |
出典:東京カンテイ
このグラフはこの三つの被害状況の比較となっています。
「旧耐震」では、イメージ通り「大破」「中破」の割合が高くなっています。しかし、「被害なし」については48.6%ということで、新耐震との間で4.4%しか差がないということがわかります。
「移行期」の建物は1970年までの建物と比べて差がみられ、「大破(建て替え可能性大)」と「中破(建て替えの可能性もある)」の割合が小さくなっています。
また、割合は低いですが「新耐震」でも、大破している物件はあることがわかります。
被害の状況は個別の建物の設計や、地震の揺れ方にもよって異なるため、一概に「旧耐震だから壊れる」とか、「新耐震だから壊れない」と言うことはできません。絶対に壊れない建物はありませんので、リスクをどこまで見るかという考え方次第になります。
構造に関して詳しく解説した記事もありますので、気になる方はこちらも参照してみてください。
専有部分で比べる新築・旧耐震
専有部分は、各住戸のなかの部分に相当します。
主に生活するのは自分のお部屋の中になりますから、間取りの使いやすさや設備仕様は大きなポイントとなります。
間取り
新築物件の間取りは、一般にウォークインクローゼットや対面型キッチンを備えたLDK等があり、現代のライフスタイルに沿ったものが主です。
間取りのタイプには、田の字や横リビングといった種類があります。選択肢はありますが、限られた面積の中で極限まで無駄をなくしたプランを各社追求しており、基本的には数種類の型に収束している傾向にあります。
基本はそのバリエーションの中で、畳数の違いなどを加味して購入する住戸を選ぶ形となりますが、販売会社によっては部屋同士をつなげたりといったカスタマイズに対応している場合もあります。
旧耐震物件の間取りは壁付けキッチンを備えたDKを備えていたりと、少し古臭いケースも往々にあります。しかし、住戸の中身を入れ替え、今風のライフスタイルと最先端のデザインを売りにした「リノベーション物件」も注目を集めています。
また、買った後に古い内装を壊し、思い通りにリノベーションすることで、自分だけの住まいを作ることもできます。価格は一般に旧耐震マンションの方が安いので、浮いた分のお金を、室内を好きなように作り替える費用に充てるというのも一つの考え方です。
不動産仲介業者から、「壁をすべて壊せば広く使えます」などといわれることもありますが、安易に信用せず、裏を取るようにしましょう。そうしないと、買ってから「思ったようなリフォームが出来なかった!」ということにもなりかねません。
なお、工事を行う際は、事前に理事会へ申請が必要な場合がほとんどです。また、管理規約によってリフォーム等に制限が設けられている場合がありますので、注意しましょう。
設備仕様
新築は物件によりディスポーザー、対面カウンター、浴室乾燥機等最新の設備を備えています。またエコ指向の高まりに応じて、窓や外壁の断熱性能も高く、空調の効きがよい傾向にあります。
しかし、逆に築古ならではの設備仕様もあります。ガス暖房対応、畳、純木製のフローリングなどは最近のマンションでは採用されない傾向にあります。
設備仕様もリフォームによって自由に作り替えることが出来ますが、ディスポーザーなどは部屋内だけのリフォームでは使えません。マンション自体が対応している必要がありますのでご注意ください。
また、旧耐震のように古い物件では、スラブ下配管が採用されていることがあります。
スラブ下配管は、自分の家の排水が下階住戸の天井裏を経由して通っており、また上階の排水が自分の家の天井裏を通っているので、リフォームに制限が出ることがあります。
修繕・維持管理について
家を買うと長くて35年間、ローン払いつづけなければならないわけですから、できるだけきれいな状態を保ちたいですよね。
ここからは、住んでからの建物の命運を左右する、修繕・維持管理についてみていきます。
購入前の内見
新築では「青田売り」といって、建物ができる前の購入となるケースが多いですが、一般に中古物件は実際の建物を見て検討することが出来ます。
内見では、お部屋の中の様子や、共用部の修繕がきちんと行われているかを自分の目で確認することが可能です。
建物は同じ築年数でも管理の状況によってきれいに見える物件や、そうでない物件に分かれてきます。旧耐震物件では、竣工後しばらく時間が経っているので、きちんと管理が行われている物件なのかを現地で確かめることが出来ます。
内覧会の有無
せっかくの新生活「大きな傷に、引渡し後気づいた!」なんてことがあっては、喜びも半減ですよね。
新築の場合、多くの販売会社では内覧会を開催します。内覧では一般に工事施工業者立会いの下で実際に住むお部屋の確認を行います。仮に傷などがあった場合でもこの時に指摘すれば直してもらえるので、綺麗な状態で住み始めることが出来ます。
一方、旧耐震に限りませんが、中古の場合は内覧会はなく「現況有姿」が一般的で、傷なども織り込んだ状態で中古として検討することになります。(リノベーションでは内覧を実施の場合もあり)
あまり気にならない場合は、その分お得に買えてラッキーとなるかもしれませんが、どうしても気になる場合は、自分で業者を見つけて直す必要があります。買う前によく確認しましょう。
なお、定価というものが存在しない中古市場において、傷などは値引きの材料として「交渉の手札」になることがあります。
住み始めてから
新築物件では、住み始めてからもアフター期間内であれば販売会社から保証が受けられます。また単純に新しいので安心という部分もあります。これは経年劣化していないということ以外にも、技術革新によってトラブルが起こりづらい製品が使われているという意味も含みます。
例えば給水管は、腐食しづらい素材が使われるようになりましたし、昔は職人が一つ一つを現場で繋いでいましたが、今は工場生産が主流で品質のばらつきが抑えられています。
旧耐震物件では設備が古い場合、部品を交換しようとしたら廃盤になっていて手に入らず、高くついたなんていうケースも見られます。
修繕について
旧耐震を含む中古物件では、物件概要書をもらえば修繕記録が書いてあり、適切な維持管理が行われているかどうかを確認することが出来ます。修繕記録には、外壁の補修や雨漏りを防ぐ屋上防水の更新等がいつ行われたかが書いてあります。
物件により設備の更新が難しく後で問題となることがありますが、旧耐震物件では大規模改修を経ている物件が多いので、例えば「給水管交換」の記載があれば、少なくとも給水管については交換できるということがわかります。
新築は修繕計画等はあるものの、今後の管理が実際どのように行われるかは未知数となります。
まとめ
このように、新築マンション・旧耐震マンションにはそれぞれメリットデメリットがあり、どちらがよいというのはご自身の求める住まいの形によって変わって来ます。
なおここでは建築的観点にフィーチャーしてお伝えしましたが、一生暮らすことになるお住まい選びですから、物件を購入される際は建物だけでなく、生活環境や駅距離、路線価等も加味して検討されることをお勧めします。